卵巣過剰刺激症候群

OHSS(ovarian hyper-stimulation syndrome)と略して言うことが多いですが、排卵誘発により卵巣が過剰に刺激を受けはれ上がった状態です。排卵誘発をすると卵巣に卵の入った袋である卵胞が出来るのですが、これが沢山出来ると(たとえば片方の卵巣に10個以上)、その一つ一つが2-3cmに大きくなりますから全体として10cmくらいの直径の卵巣になってしまうことがあります。イメージとしては大きな巨峰(ぶどう)が下腹部に左右にあると考えればよいと思います。こうなるとおなかが張って苦しくなり、動くと痛いという状態になります。しかしはれても10cm以下で次に書くような腹水が余りたまっていなければ特に入院などの必要はなく、無理をしなければ通常の生活が出来ます。

OHSSがひどくなると卵巣の表面のなどから水分がしみ出してきておなかの中に腹水としてたまってきます。卵巣の直径が10cmを越えて腹水がたまってきたら入院して安静にする必要があります。この水分のしみだしは卵巣表面にとどまらず腹膜などからも出てきておなかの中に水がたまる(腹水という)という状態になり、次第におなかがぱんぱんになってきます。そうなると横隔膜が圧力で引き延ばされてひどい胃の痛みのような伸展痛という痛みがおこります。症状がひどくなると腹水だけでなく胸水といって肺の外側にも水がたまってくることがあります。このような状態になると血液中の水分が減ってきますので血液がどろどろになってしまいます(結局血液中の水分がしみ出して腹水になるのです)。どろどろになった血液は固まりやすく血栓を作りやすくなります。それらが剥がれて色々な臓器に詰まってしまう塞栓症という状態になるとそれらの臓器不全を起こすこともあり得ます。

治療としては一般的に水分を補給して血液を出来るだけさらさらにしようとしますが、病気の本質として水分はどんどんしみ出して益々腹水がたまることになってしまいます。腹水を減らす方法として低容量ドーパミン療法やアルブミンの投与などが行われます。これらの方法が効き出すのにそれなりの時間がかかりますので、その間は水分を補給したり場合によっては腹水を抜いたりすることもあります。しかしそこまでの処置が必要な場合は総合病院に搬送します。

ただここまでひどい症状になるのは非常にまれです。しかし多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)といわれる排卵障害のある人は、注射による排卵誘発を行うと卵胞が沢山出来て過剰刺激になりやすいのです。PCOS(もしくはPCOタイプといわれるPCOSに近いと考えられる人)の場合は、注射による排卵誘発を行う場合は十分慎重に行う必要があります。

OHSSは妊娠が成立するとひどくなる事が多いので、過剰刺激症状が余りひどくなるときはその一番の治療は妊娠中絶と言うことになります。せっかく妊娠したのに中絶するのは忍びないのですが、やはり体が大切なのでひどいときは中絶も考慮に入れなくてはなりません。

妊娠しなければOHSS症状はどんなにひどくても生理が来ればすっと治ってしまいます。ということは妊娠しなければそれほど怖くはないのです。つまりPCOSなどでOHSSになりそうな場合は体外受精を行って、とれた卵を受精させて(受精卵を胚という)すべて凍結してしまうという全胚凍結を行うことにより重症OHSSを回避することが可能です。そしてその後の自然周期やホルモン剤を使用した周期に凍結胚を溶かして子宮に戻せばOHSSにならずに妊娠することが出来ます。